研究成果

マルトリを経験した子どもの脳と網膜層の非定型性が関連

2024-05-20

 福井大学子どものこころの発達研究センター・矢尾明子学術研究員、西谷正太特命講師、友田明美教授らの研究チームは、福井大学医学部眼科学・稲谷大教授らとの共同研究において、マルトリートメント(マルトリ)の経験がある子どもの脳と網膜層の非定型性を明らかにしました。マルトリは、脳の発達に影響を与える深刻な社会的要因のひとつであり、様々な精神疾患のリスク要因となります。これまでも、マルトリ経験を持つ子どもを対象とした研究で、脳領域への影響は散見されていますが、その脳領域につながる感覚器官における非定型性は検討されていません。本研究では、マルトリ経験のある子ども(n=21)とそうでない定型発達の子ども(n=23)の脳と詳細な眼科関連データを検証しました。全脳解析により、マルトリ経験のある子どもの視床、ROI解析によって右視覚野、また、網膜の断層像が得られるOCT検査(optical coherence tomography)により、両眼の網膜神経線維層の構造的な非定型性が明らかになりました。さらには、非定型性が認められた右視覚野の大きさと両眼の網膜神経線維層の薄さが関連していることもわかりました。今後、このような感覚器官に及ぶ知見が蓄積されることで、マルトリの臨床症状の解明につながるだけでなく、より簡便な方法でマルトリの早期発見につながることが期待されます。

1. 本研究の成果は2024年5月20日Scientific Reports誌に掲載されました。
論文の出典情報
Yao A, Nishitani S, Yamada Y, Oshima H, Sugihara Y, Makita K, Takiguchi S, Kawata NYS, Fujisawa TX, Okazawa H, Inatani M, Tomoda A. Subclinical structural atypicality of retinal thickness and its association with gray matter volume in the visual cortex of maltreated children. Sci Rep. 2024 May 20;14(1):11465.
doi: 10.1038/s41598-024-62392-6.