2021-11-18
福井大学子どものこころの発達研究センターの西谷正太特命助教は、米国・エモリー大学アリーシャ・スミス准教授との共同研究により、虐待などの不適切な養育「マルトリートメント」を受けた子どもでは、一般の同年代の子どもに比べ、オキシトシン遺伝子の発現量を調整するプロモーター領域が、より化学修飾(DNAメチル化)されているという、エピジェネティックな分子機序を解明しました。また、このメチル化が多い程、背側注意ネットワークの左上頭頂葉容積の低下、報酬系ネットワークの右被殻の脳活動の低下とも関連していたことを、脳MRI撮像データとの相関解析より明らかにしました。一方、このメチル化は、マルトリートメントを受けていた子どもの中では、特に5-8歳時にマルトリートメントを受けていたことや、身体的虐待を受けていたことの影響が大きいこともわかりました。また、身体的虐待を受けてきたほどの重症例では、右被殻と左上頭頂葉との機能的結合が強いことも明らかになりました。本研究成果は、マルトリートメント児の遺伝子上に後天的に生じた分子変化を捉えたもので、将来的には、エピジェネティックな機構にターゲットを絞った全く新しい治療法への道が期待されます。本研究成果は、2021年11月18日に英国科学誌Nature系「Translational Psychiatry(トランスレーショナル・サイキアトリー)」に掲載されました。
Nishitani S, Fujisawa TX, Hiraoka D, Makita K, Takiguchi S, Hamamura S, Yao A, Shimada K, Smith AK, Tomoda A. A multi-modal MRI analysis of brain structure and function in relation to OXT methylation in maltreated children and adolescents, Translational Psychiatry, 11, Article number: 589 (2021).